死に直面する人のためのミサ
マルコ・アントニオ・マルティネス神父
ごミサは何よりも感謝の祭儀です。カトリック信者である私たちは嬉しいときも悲しいときも、キリストによって、キリストと共に、キリストのうちに聖霊の交わりのなかで御父である神を賛美することは大切な務めです。
赦しの秘跡、病者の秘跡そしてご聖体の秘跡をとおしてヨセフUK・Sさんは闘病生活における信仰を司祭職にある私とともに信仰を証しして下さいました。二年ほどの苦しい生活の最後にお医者さんから病状の報告を受けたときにUKさんの奥様はすぐに私に連絡をくれました。私は急いでUKさんを訪ね、ご家族と一緒にSさんのためにお祈りをしました。
その祈りが終ってから、ご家族に「ここでミサを捧げましょうか」と訊きました。すると彼らは、是非そうしてくださいと言うので、教会に戻りミサの用意をして再びUKさん宅に行き、ベッドの傍に仮祭壇を作りました。「今日のためのミサにしますか、死に直面する人のためのミサにしますか」と傍におられた次男の方に尋ねました。死に直面する人のためのミサにすることに決まりました。ベッドの周りにお奥様、ご次男のJさん、Jさんの奥さんとお子さんがかこみました。ご長男はまだアメリカからの帰国途中でした。ミサが始まりました。感動のうちに信仰をこめてミサの祈願の一つひとつを捧げました。
(集会祈願)
いつくしみ深い父よ、人は死の門を通って永遠のいのちに入ります。
臨終の床にあるわたしたちの兄弟を顧みてください。
御子イエスの苦しみと死にあずかり、すべての罪から解放されて、み前に立つことができますように。
聖霊の交わりの中で、あなたとともに世々に生き、支配しておられる御子、わたしたちの主イエス・キリストによって。アーメン。
(奉納祈願)
全能の神よ、人生を終ろうとしているわたしたちの兄弟のため、この供えものをささげて祈ります。
すべての罪を赦されて、永遠のいのちの喜びに入ることができますように。
わたしたちの主イエス・キリストによって。アーメン。
(拝領祈願)
あわれみ深い神よ、わたしたちの兄弟を、あなたのいつくしみで包んでください。
秘跡の力に支えられて臨終の戦いに打ち勝ち、天使、聖人とともに、永遠のいのちに入ることができますように。
わたしたちの主イエス・キリストによって。アーメン。
人は誰でもお別れの時が来たら不安におそわれます。この時こそ家族の、また仲間である信者たちの祈りが必要です。ミサが終って私はお別れの挨拶をして教会に戻りましたが、後になってご次男の方から、神父様の出て行かれようとしたときこれまで動くことのなかったUKさんが見送るためにお起き上がろうとしたと聞きました。これを聞いて私は、UKさんは目を閉じたままで、口も利けないままでしたが彼のための大切な祈りに参加されたこと、司祭に対して尊敬のこころを持ち続けておられたことを知りました。翌日は修道院でのミサでシスターたちと、そして教会で信徒たちと一緒に同じ「死に直面する人のためのミサ」をUKさんのために捧げました。
アメリカからご長男が帰られて後、連絡を受け、臨終が近いことを知り、すぐにUKさんの家に伺いました。そして臨終の祈りを捧げました。
主があなたと共にあり、あなたを守ってくださいますように。主イエス・キリストがあなたの前に立ってあなたを導き、あなたの後にあってあなたを強めてくださいますように。
あなたを顧み、あなたを支え、あなたを祝福してくださいますように。全能の神父と子と聖霊のみ名によって。アーメン。
わたしは余り夢を見ませんが、その晩、私は夢をみました。UKさんの夢です。夢の中で、UKさんは病床にありながら私の手をしっかり握り、はっきりとした言葉で私に話しかけていました。そこで一旦目が覚めましたが、また眠ってしまいました。そして数時間後、UKさんが天国に帰ったとの連絡を受けました。普通、ご家族は信者さんが亡くなってから司祭を呼びます。でもUKさんのご家族はご主人の危篤を知ってすぐに私を呼びました。秘跡がどんなに大切かを知っていたからです。司祭職をとおして神さまのあわれみ、慈しみ、そして赦しをいただくことを知っておられたのです。この世からの旅立ちの前に信者さんに秘跡を授けることの大切さを私もまた再確認しました。そして今、マリアさまへの祈りの言葉がこころに響いています。
「今も死を迎える時にもわたしたちのために祈ってください」。
※ウェブ掲載にあたって個人名をイニシャルに変更しました。
「シャローム」2009年02月号掲載