祈り
マルコ・アントニオ・マルティネス神父
「それから、イエスが舟に乗り込まれると、弟子たちも従った。すると突然、海上に激しい暴風が起って、舟は波にのまれそうになった。ところが、イエスは眠っておられた。そこで弟子たちはみそばに寄ってきてイエスを起し、『主よ、お助けください、わたしたちは死にそうです』と言った。
するとイエスは彼らに言われた、『なぜこわがるのか、信仰の薄い者たちよ』。それから起きあがって、風と海とをおしかりになると、大なぎになった。彼らは驚いて言った、『このかたはどういう人なのだろう。風も海も従わせるとは』。 (マタイによる福音書(口語訳) 8:23-27)」
人間の歴史において、いま、私たちが体験しているような自然の災害は、度々起こってきたことです。地震、津波、放射能の危機などなど。そして、この自然の災害を前にするとき、私たちは、人間の弱さを体感します。こんな時、私たちにできるのはただ祈ることだけです。「主よ、助けてください。わたくしたちはおぼれそうです(マタイ(フランシスコ会訳) 8:25)」と。
科学の発展はとても大事なことです。私たちはもう何年もの間、日常生活のなかで原子力で作られるエネルギーを利用しています。しかしいま、その原子力が私たちに危機をもたらしています。
このような苦しみの時にはいろいろな答があります。でもその答には三つの原点があります。〔神〕、〔人間〕、〔物の価値観〕です。
〔神〕
主イエス・キリストは「神さまは憐れみ深い父親です」と言います。私たちは神さまの声を聞き、そこからいただく戒めを守ることで、人間として、また神の子どもとしてほんとうの幸せを得ることができます。
〔人間〕
聖書のことばによると、人間は自然とすべての生き物を支配するために神にかたどって造られました。
「神はまた言われた、『われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう』。
神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。
神は彼らを祝福して言われた、『生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ。また海の魚と、空の鳥と、地に動くすべての生き物とを治めよ』。(創世記(口語訳) 1:26-28)」
〔物の価値観〕
すべての自然は、人間のために、神さまによって創造されました。ところが人間のせいで、良いはずの自然が人間に対立するものとなりました。しかし、神さまはその対立を元にもどす道を人間に示してくださいます。その道を見出すために人間に必要なのは回心です。
私は40年以上日本で生活してきました。その間に日本の社会の変化をいろいろ体験しました。私が日本にきた頃は第二次世界大戦後で、まだ物の少ない時代でした。その後だんだんに経済が活発になり、経済大国になりました。1980年代のバブルもありました。お金さえあれば、何でも手に入れることができると考えられたほどでした。バブルがはじけて徐々に下降していった景気が、なんとか元気になるかと思われはじめた時に、この災害が起こりました。
いまは回心の時です。神さまに対し、人間に対し、物の価値観に対し回心の時です。そしてこの苦しみ、暗闇のなかに希望の光が見えます。全世界のどこかで、日本のために祈っている人々がいます。数年前、西千葉教会、茂原教会、東金教会とともに、私たち千葉寺教会は五大陸のロザリオを祈りました。いまは五大陸の人たちが私たち日本のために祈っています。
災害はまだ終っていません。まだ安心できません。亡くなった人々は何千人もいます。苦しんでいる人々がたくさんいます。でも祈りの力によってこの苦しみは消え去り、日本の社会がこの大きな犠牲によって神さまに立ちかえり、〔人間〕、〔物の価値観〕のほんとうの姿を取りもどすときがきっときます。新しい夜明けがくるのです。
大好きな日本人と一緒にこの苦しい体験をとおして、新しいすばらしい体験のできる日を待ち望みます。皆さん一緒にお祈りましょう。
「シャローム」2011年04月号掲載